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monoru | 投稿日時: 2010-1-12 20:40 |
管理人 ![]() ![]() 登録日: 2008-4-5 居住地: 投稿: 9 |
一人ぼっちの旅行 高校1年の夏、僕は原付バイクで山形から富士山へ向けて一人で旅立った。 それは後から考えれば無謀ともいえる計画ではあるのだが、そのいきさつを夏休みの宿題の作文に書いて提出した。 学校へ無届で、またその無謀な内容に学校でも無視できなかったのか職員会議にかけられたのだった。 しかし、国語の教諭からは「よかったよ」などと声を掛けられ、その年度の学校発行の文集に「一人ぼちの旅行」という題で掲載になったのである。 発行された文集で、当時かなりの話題になったのを覚えている。 友達もいない孤独な僕に友達ができ、恋人らしき女の友達も現れたり・・・・ しかし、その文集はどこへ行ったのやら、行方不明になって数十年が過ぎていた。 それが先日、ある探し物の最中、押入れの中の紙袋の中からその文集が出てきたのである。それも大正時代の印刷物か?とも思わせる色合いに色あせて・・・。 という書き出しで昨年の8月から数回にわたり書き連ねてきた我が青春期のものがたりもここで完結です。 読んでもらえなかったらどうしようか?・・などと不安に思いながらの書き出しでしたが、なんとかアクセスもあり、削除せずに完結を迎えられたことをここに感謝いたします。一部書き足しもありましたが、ほとんどをそのまま原文を書き写しました。 つたない文章にお付き合いくださった皆様に感謝するしだいです。 「一人ぼっちの旅行-8」 ![]() (写真は、46年前の芦ノ湖畔のキャンプで知り合った隣のアメリカ人の子供たち) 【懐かしのわが町・わが家族】 箱根を発ってから12時間もかかって東京の中心部に着いた。 それも夜どおし歩き続けたのがこたえたのか、上野辺りで眠くて眠くてしょうがない。 それとも上野からは4号線をひたすら北へ向かうだけなので、安心感から眠気がでたのかもしれないのだった。 僕は上野公園で顔を洗い、少し休んでから、小さな東京地図を片手に山形へ向けてバイクを走らせた。 事故を起こさないよう、スピードを落として走った。 それでも眠気が出て頭がくらくらするので、時々、川を見つけては足をつけて眠気をさました。 それでも気がつけば道路の中央を走っていたり、行きかう車からクラクションを鳴らされたりした。 途中、なんどもここでテントを張ろうか・・・と思ったかしれない。 しかし、帰心矢の如しとはいったものだ。もう帰りたいという思いが心に充満していて、体もそれに従い、ひとりでに前へ前へと進んでいくのだった。 福島市に着いたのが午後2時半頃である。 途中何も食べていない。顔には汗のためかブツブツができていた。 来るときに通った栗子峠はもうこりごりなので、帰りは去年(昭和37年11月)開通したばかりの宮城県白石市から山形県上山市へ抜ける蔵王エコーラインを通ることにした。 ただ山岳道の蔵王エコーラインは寒かった。それに道路も舗装されておらず、衰弱してふらふらする体にはかなりこたえた。 それでも、あの栗子峠のようなぬかるみはなく、それにすぐそこに我が家があると思うと不思議に疲れが吹き飛んだ。 刈田岳の山頂脇に着いたのは午後5時10分だった。 登り道は終わり、ここからは下り道だけである。 そしてなによりももう上山市に入ったのだった。 嬉しい。そしてなつかしい。 刈田からの下り道、山形県側の空は僕の足下に雲海が広がっていた。 ところどころに高い山の頂が島のように点在して見えた。 心が躍るとはこういうことか、僕は我が家で待つ家族のことばかりを考えていた。 家では何も変わったことがないことを祈った。 それに、温かく迎え入れてほしいと願った。 山道は終わり、ついに懐かしい見覚えのある上山の景色が眼に飛び込んできた。 泉川橋を渡った。 とうとう上山の町中に入った。 振り返ると、そこにはいま下りてきた蔵王の山がきれいに見えた。 すべてのものがなつかしい。 上山の町をこんなに愛着をもって眺めたことはなかった。 市内を走る僕の眼には涙があふれてくるのだった。 僕は涙をふきはらうことすらしないでバイクを走らせた。 家が近づくにつれて、今にも心が爆発しそうである。 箱根を出てから21時間20分、8月7日午後6時20分、最良の我が家に僕は着いたのだった。 「ただいま!」と一声叫ぶと、感激が爆発して大きな声で泣いてしまった。 母がいる、父がいる、兄弟みんながいる、何もかも変わっていない。それが何より嬉しかった。 走りこむ僕のズボンの中で、残金の20円がちゃりんと鳴った。 そしてここに、全長1275キロの16歳のひとりぼっちの旅行を終えたのである。 (完) ![]() |
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